いざ、美観地区の「大橋家住宅」へ! 国指定重要文化財である町家の魅力に迫る

倉敷美観地区から中央通りを越え、西へ徒歩約60m。国の重要文化財に指定されている「大橋家住宅」は、閑静な場所にたたずんでいます。

大橋家住宅。表の長屋門
大橋家住宅。こちらは裏の駐車場側から見たところ

同施設は、倉敷で力のあった商家「大橋家」が代々住んだ屋敷。1978年に主屋、長屋門、米蔵、内蔵の4棟が、国の重要文化財に指定されました。2017年には日本遺産「一輪の綿花から始まる倉敷物語〜和と洋が織りなす繊維のまち〜」の構成文化財にも認定されています。

また、倉敷窓や倉敷格子、なまこ壁など、倉敷町家によく用いられる装飾が施されているという特徴もあります。建物内を見学できるのはもちろん、実際に使われていた家具などにも触れて楽しめる文化施設です。

今回は、スタッフの津川みゆきさんにお話を伺いながら、大橋家住宅の魅力をたっぷりと紹介しましょう。

※記事内に記載している金額は全て税込みです。

※情報は2024年4月時点のものです。

大橋家住宅のこれまでの歩み

大橋家の先祖は、豊臣氏に仕えた武士でした。江戸時代初期に大阪城が落城し、京都五条大橋あたりから備中中島村(現在の倉敷市中島)に移住。1705年頃には倉敷に定住して「中島屋平右衛門」を名乗り、水田や塩田開発、金融業を営んだといわれます。また、香川県直島の塩田開発も行い大きな功績を残しているそうです。こうして江戸時代末期には、倉敷村の庄屋を務めるほどの豪商となっていました。

住宅の主要部分は、1796〜1799年にかけて建築。その後、1807年と1851年の二度にわたって大規模な改築がなされています。最も屋敷構えが整っていたのは1851年とされており、平成に行われた改修工事でその当時の姿に復元されました。

太鼓橋の部分を横から見たところ

なお、湯殿と4部屋を備えた「奥座敷」部分は、1995年の改修で撤去されました。現在は奥座敷をつないでいた太鼓橋の一部のみが残り、ひな人形などを飾る展示スペースとして活用されています。

大橋家住宅の見学順路

大橋家の出入り口は2カ所あります。一般客は「長屋門」から出入りし、賓客は「表門」から通されていました。見学する際は長屋門で入館受付を行ってから庭を抜け、主屋の土間から靴を脱いで上がります。

まずは賓客をもてなすために使用された「上の間」へ。続いて「主人の書斎」や付き人の控室だった「小座敷」をめぐり、当主とその家族が生活していた「納戸(寝室)」や「居間」、「台所」などを見学します。

その他に、米蔵は資料館として改装されており、現在は所蔵品を展示。こちらは主屋を見学してからの入館がおすすめです。

津川さん:

スタッフに声を掛けていただければ、館内をご案内します。ただ、入館状況によってご案内できない場合もありますのでご了承ください。

大橋家住宅の建築・建具の特徴

邸内を見学していると、建築技術や建具のデザインから格式の高さを感じられます。大橋家の栄華を感じられる建築や建具に注目してみましょう。

 

倉敷町家の大きな特徴「倉敷格子」

倉敷町家の意匠で、大橋家住宅では長屋門の出格子などに用いられています。太い格子の間に細い3本の格子が組まれたデザインです。上部の格子は換気や採光をし、下部の格子は外からの視線をさえぎるという機能美が備わっています。

大橋家の勢いを今に伝える「長屋門」

街道に面して建てられた長屋が門になっている構造から「長屋門」と呼ばれています。長屋には、使用人が住んでいたとされています。

長屋門は、武家屋敷に多く用いられ、通常の町家では許されていません。大橋家に力があったことを示す大きな特徴です。

写真左側、土間との間に「端米入れ」が作り付けられている
土間に作り付けの「端米入れ」

同家は大阪へ米を卸していたため、長屋門の内部に小作人が収穫した米を納めるスペースも併設されていました。米俵を300俵収容可能な「店の間」や、納めた米俵の量を調整するための米を保存する「端米入れ」も残されています。

敷居がセパレート式になっており、必要に応じて取り外せる

ちなみに、長屋門の敷居は、米俵を運搬する荷車や人力車を通すために着脱が可能となっていました。

大切なゲストを通した「中門」

賓客のみを通していたもう一つの出入り口で、主屋の庭へと続きます。現在は、同施設が結婚式会場として使われる際の入場口にもなっています。

 

「上の間」の欄間が語る歴史?

賓客をもてなす部屋「上の間」の欄間には、渦巻く波の彫刻が施されています。大橋家のルーツが豊臣家の家臣だったことから、朝鮮出兵を描いているという説があるほか、当時の倉敷市の大部分が海だったことから、波をモチーフにしているという説もあります。

現代のトイレに通じる「音消し壺」

「上の間」に面した庭の端にはトイレが設けられており、そばに「音消し壺」が備えられていました。これは、現在でいう消音装置で、当時は付き人がこの壺に水を流すことで消音していました。日本人の奥ゆかしさを感じる設備です。

大橋家の財産を守っていた頑強な「内蔵」

主屋の室内から蔵の扉が見えます
外から見るとこのようにつながっています

主屋から直接続く内蔵には、大橋家の財産が保管されていました。財産は床下に保管され、しっかりと防火対策が施されました。

 

施設のおすすめポイントをチェック!

見学する際に「ここは特に見てほしい」というおすすめポイントを津川さんに教えていただきました。

 

貴重な所蔵品の数々

邸内や米蔵(資料館)には、大橋家に残る品々が展示されています。当時の現金や工芸品のほか、食器のほとんどに家紋が描かれている点にも注目です。

大橋家では香道をたしなんでいたようで、香道具も残されています。

また、居間には常香盤(香時計)が置かれています。これは、香が燃焼した位置で大まかな時刻を知ることができる、原始的な構造の時計として活用されていました。

常香盤(香時計)
常香盤(香時計)
端から順に香が燃焼してゆく位置で時刻を知る雅な仕組み

快適な住環境を作り出す「坪庭」

主屋の間取りは、どの部屋からも坪庭が見えるように設計されています。坪庭は複数設けられているため、採光に役立つほか、開放感を得られ風通しが良くなるというメリットもあり、夏を涼しく快適に過ごせていたようです。

坪庭の中には、巨大な備前焼の「かめ」が置かれています。ここに雨水をためておくことで、防火水槽としての役目も果たしていたそうです。

津川さん:

当館には貴重な品物が数多く残されています。中でも調度品や食器類などへのこだわりを感じますね。大橋家は、商家とはいえ庶民でした。江戸時代は表立った贅沢が難しい時代だったので、こうして侘び・寂びを感じる品々が好まれていたようです。居間で香時計を使いながら、ゆったりと流れる時の中でくつろいでいたのかもしれません。

当時を再現した部屋でゆったり過ごせる

大橋家住宅では、各部屋に当時の生活風景が再現されています。「できるだけ所蔵品を見て、当時の暮らしを感じてもらいたい」という現当主の思いにより、邸内には実際に触れることができる所蔵品も多く置かれています。例えば、当主の書斎では机の上に広げられている本を読むことが出来ます。

また、上の間から庭に下りて散策することも可能です。こちらの石畳の中には、ハート型の石が隠れています。ぜひ探してみてくださいね。

ハートの形をした庭の敷石
ハート型の石。見つけるといいことがあるかも?

津川さん:

館内にはスタッフによって季節の花を飾っていますので、あわせて楽しんでいただければ幸いです。実際に使われていた物品や食器だけでなく、お花も当時の情景を想像させてくれるものです。生活感を味わっていただけるように心掛けています。

邸内のいたるところに花が活けてあり、訪れる人にそっと季節を告げます

フォトスポットとしても人気の「居間」

一家団らんの場だった「居間」にはテーブルと椅子を配置。館内の見学途中にひと休みできる場所となっています。また、ここはフォトスポットとしても人気で、着物レンタルを楽しむ観光客が記念撮影に訪れるそうです。

ちなみに、津川さんおすすめの撮影アングルは、土間からのロングショット。居間と坪庭が入ったフォトジェニックな一枚を撮影できます。

立派な梁と天井の造形。窓には猫がネズミを追いかける影絵が仕掛けてあります

津川さん:

冷え込む日は、日光が当たる暖かい縁側でくつろぐ方もいらっしゃいます。散策中の休憩も兼ねて立ち寄られる方も多いですね。このようにゆったりと見学できる文化施設は珍しいと思います。ゆっくりと流れる時間の中で、当時の生活を思い浮かべてみてください。

さまざまなイベントの実施も!

大橋家住宅では結婚式やジャズライブ、マルシェ、アート展示まで、多彩なイベントが開催されています。(詳しい情報は公式ホームページをご覧ください)

花もよい

装飾家・能勢聖紅氏の展覧会で、毎年ゴールデンウィーク中に開催されています。2024年は4月26日から5月6日まで

 

備前焼展

2名の備前焼作家による展覧会です。

 

和風結婚式

前述したとおり、挙式会場としても利用されています。表門から入場し、上の間で式を執り行います。重要文化財での結婚式が記念になると好評です。

オリジナルグッズをお土産に!

古銭・藩札・銀札はレプリカでなく本物
藩札・銀札(昔の紙幣)はラミネート加工したものと、そのままのものがあります

ショップコーナーには、他では手に入らない限定グッズが販売されています。寛永通宝や藩札は施設内で保管されていた本物です。その他、スタッフによるキュートなハンドメイド雑貨もあるのでぜひチェックを。

・寛永通宝ストラップ 四文銭450円 一文銭400円 

・藩札 1枚300円

・おにぎりポーチ 500円

まとめ

倉敷美観地区の通りからは少し離れていますが、にぎやかなエリアとは違った魅力がある大橋家住宅。住人になりきって当時の情景をイメージしながら、町家の魅力を味わってみませんか。

<津川さんからのメッセージ>

最近は海外からのお客様が多いですが、日本の方にも訪れて色々なことを感じ取っていただきたいと思っております。そしてゆったりとした時間を過ごして「良い時間だったな」と思っていただけたらうれしいです。当館では、新しい試みにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。皆様のご来館を心よりお待ちしております。

大橋家住宅

HPhttp://www.ohashi-ke.com/

住所:倉敷市阿知3-21-31 

TEL:086-422-0007

休館日:12月~2月の金曜・年末年始 

営業時間:9:00 ~ 17:00 

入館料:大人一般550円、小中学生 350円、65歳以上350円

    団体(30名以上)450円

 

※ガイドは予約不要ですが、来場者の状況により対応できない場合もありますのでご了承ください

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