方言のプロが分析 「岡山弁」は地域ごとに違いがある!? 難解岡山弁クイズにも挑戦しよう

ここ数年、岡山県出身のお笑いコンビ・千鳥やシンガーソングライターの藤井風らの活躍などにより、全国的にも注目されている岡山弁。岡山芸人が一同に会した人気バラエティ番組などで、岡山弁が話題に挙がることも多くなっています。そんな岡山弁ですが、実は地域ごとに少しずつ違いがあるのをご存じでしょうか。今回は、過去に岡山弁協会会長を務めたこともある、“岡山弁のプロ”の青山融さんに取材し、岡山弁の特徴や魅力、地域ごとの違いなどをお聞きしました。さらに、後半では岡山弁クイズもありますので、ぜひ挑戦してみてください。

岡山弁の特徴とは?

合理的かつ省エネな言葉

「きつい」「きたない」というイメージを持たれることも多い岡山弁ですが、その特徴は「のんびりまったりとした、素朴な響き」だと、青山さんは話します。これは、連母音(2つ並んだ母音)が合体して長音化したり、助詞が直前の単語の母音と融合したりして、長音が目立って聞こえることによるものです。

青山さん

合理的かつ“省エネ”なところが岡山弁の魅力ですね。言葉を1つずつきちんと発音しようとすると一生懸命に口を動かす必要がありますが、長音化することでまったりと力の抜けた発音になっています。例えば、次のような言葉がそれに当たります。

お前 → 「おめー」、歩いて帰ろう → 「ありーて けーろー」、家を → 「いよー」
「おめー」は「お前」、「ありーて けーろー」は「歩いて帰ろう」、「いよー」は「家を」の意味

時代の最先端!?

加えて、以前は若者言葉とされ、現代では一般化しつつある「ら抜き言葉」や「れ足す言葉」も、実は岡山弁では昔から老若男女問わず使われてきました。

食べられる → 「食べれる」、泳げる → 「泳げれる」
「ら抜き言葉」や「れ足す言葉」の例

青山さん

そういう点では、岡山人の“先取り精神”が表れた最先端の言葉ともいえます。

強調表現「すごい」「すごく」の種類が豊富

岡山弁を代表する言葉といっても過言ではない、「でーれー」「ぼっけー」「もんげー」。看板などにも使われているおなじみの岡山弁で「すごい」や「すごく」などを意味します。

青山さん

これ以外にも、「ぼっこう」「ぶち」があります。「すごい」という強調表現だけでこれだけ種類があるのは、岡山の県民性にも関係しているのではないかと私は思います。岡山は昔から気候が温暖で災害が少なく、隣近所とそれほど協力しないでも生きてこられたため、県民にはベタベタしないドライな気質です。とはいえ他人と会話をする際、たとえば大きな事故を目撃した話をするとして、「でーれー(すごい)事故を見た」と話しても、相手からは悪気なく「それがどしたん(それがどうしたの)」とそっけない返答をされてしまう。そこで注目して聞いてもらうために、「すごい」と強調するその他のさまざまな言葉が生まれたのではないかと。これはあくまで私の推察ですが…。

つまり、「でーれー」「ぼっけー」「もんげー」という岡山弁を代表する言葉は、ドライな気質でありながらも、「人が好きでコミュニケーションを深めたい」という、少々不器用で温かな県民性が表れているというわけです。

岡山県内の地域ごとで岡山弁の使い方に違いはある?

岡山弁分布地図

岡山弁と一言でいっても、実は地域ごとに多少違いがあります。例えば、井原市出身の千鳥・ノブさんが話すのは、岡山弁の中でも「備中弁」です。また、同じ井原市でもさらに西寄りの、広島県福山市と隣接する地域になると、「備後弁」が使われるようになります。

さらに、岡山県全域で共通の方言が使われる単語もあれば、該当の地域限定で使われている言葉もあると青山さんは話します。

地域によって違いがある岡山弁

青山さん:

標準語の「~しなさい」を意味する言葉は、岡山弁だと主に次のようなものがあり、地域ごとにはっきり分かれています。これほどきれいに分かれているのは、日常でよく使う言葉だからではないでしょうか。

「~しなさい」を意味する岡山弁、「せられー」 「しねー」 「しんちゃい」
「~しなさい」を意味する岡山弁は岡山市など備前地方では「せられー」、倉敷市など備中地方では「しねー」、津山市など美作地方では「しんちゃい」

「はよーしねー」(はやくしなさい)は、しばしば「早く死ね」という意味だと誤解されるため、岡山弁の笑い話としてメディアにも多く取り上げられていますが、厳密にいうと岡山市などの備前地方では使われていません。

青山さん:

また、限定された地域で、年配の方にしか使われていない言葉もあります。

「いんぎょちんぎょ」 → ちぐはぐ の意味。「しょーたれ」 → だらしない、散らかっている の意味
いんぎょちんぎょ」は「ちぐはぐ」の意味。倉敷の玉島・船穂・真備エリアで主に高齢者が使用しています。「しょーたれ」は「だらしない、散らかっている」の意味。倉敷の児島エリアで主に高齢者が使用。「潮がたれる」が訛った言葉。

岡山県全域で使われている言葉

青山さん:

「~じゃ」や「わや」は、岡山市でも倉敷市でも北部でも、ほぼ岡山県全域で使われる言葉ではないでしょうか。特に「~じゃ」は中国地方全体で使われていますし、名古屋などの方言にもあるようです。

「わや」 → めちゃくちゃ の意味、「~じゃ」 → ~だ 
「わやじゃ」は「めちゃくちゃだ」の意味

「でーれー」「ぼっけー」「もんげ-」は人によって使い方が異なる

青山さん:

「すごい」を意味する「でーれー」「ぼっけー」「もんげー」の使い分けは、地域差というより個人差があります。

「でーれー」「ぼっけー」「もんげ-」を強調するレベルで使い分ける場合
「でーれー」「ぼっけー」「もんげ-」を強調するレベルで使い分ける場合
「でーれー」「ぼっけー」「もんげ-」を強調するレベルで重ねて使う場合
「でーれー」「ぼっけー」「もんげ-」を強調するレベルで重ねて使う場合

ちなみに編集スタッフの学生時代は、「でーれー派」「ぼっけー派」と分かれていました。

青山さん:

「でーれー」「ぼっけー」「もんげー」は岡山弁を代表するベスト3の言葉ですが、最近の小学生はほとんど使わないようです。これはちょっと寂しいですね…。岡山弁の危機かもしれません。

全 3 問!難解岡山弁クイズ

岡山弁について理解が深まったところで、岡山弁クイズに挑戦してみましょう! 下の3つの岡山弁の文章は、どのような意味を表しているでしょうか?かなりの難問ですが、地元民の方はもちろん、県外の方もぜひ考えてみてください。(答えは本文末にあります)

何と言っているのでしょうか?Q1 「いよーめぎょんじゃ」Q2「いんでにょーれー」Q3「けーちもーめーでー」

【ヒント】

「連母音(母音が2つ並ぶ)が合体して長音化したり、助詞が直前の単語の母音と融合したりする」という、岡山弁の特徴から推察すると答えが分かるかも?

母音の変化による短縮や豊富な強調語など、合理的でありつつ、のんびりとした人間的魅力にあふれた岡山弁。「若い世代で使われなくなっている言葉もありますが、千鳥さんがテレビで岡山弁を話し、全国に広めてくれているのはとてもありがたいことですね」と青山さん。芸能人やスポーツ選手など岡山勢の活躍とともに、岡山弁が全国で“でーれー人気”になる日もそう遠くないはず!?

プロフィール

青山融さん

元岡山弁協会会長。現在は岡山県内の公民館などでの講演活動を中心に活動中。
1949年津山市生まれ、幼少期に岡山市に転居。「月刊タウン情報おかやま」編集長や、岡山の大人のための地域生活情報誌「オセラ」編集長などを歴任。著書に「岡山弁JARO?」(ビザビリレーションズ)、「岡山弁トランプ【ぼっけーセット】」(吉備人出版)など多数。映画「バッテリー」「釣りバカ日誌18」などの方言指導も行う。

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