倉敷を発展させた大原家が住んだ町家 「語らい座大原本邸」でお気に入りの一枚を撮影しよう

国内のみならず、世界各国から観光客が訪れる倉敷美観地区。江戸時代より、倉敷川を利用した物質輸送の集積地として栄え、白壁の蔵屋敷が並ぶ美しい町並みが今も残ります。

その中でも、近年、観光客から注目を集めている施設が「語らい座大原本邸」です。倉敷を代表する江戸時代後期の町家建築で、名家・大原家が代々暮らし、商いを営んできました。往時のたたずまいを今に伝える貴重な建築物で、主屋、離れ座敷、倉8棟は国の重要文化財に指定されています。

邸内はどこでも撮影OKで、美しい日本庭園や伝統的な町家建築の意匠、独創的な展示物など、撮影ポイントがいっぱい。今回は、そんな「語らい座大原本邸」の見どころを、館長の山下陽子さんにお聞きしました。

語らい座大原本邸の歴史

大原家は、蔵米取引や実綿問屋などの商売に励み、やがて倉敷紡績(後のクラボウ)や倉敷絹織(現クラレ)の設立のほか、大原美術館、倉敷中央病院など、多岐に渡る社会事業を展開し、代々、倉敷の発展に尽力してきました。

その歴史は、江戸時代の元禄期に初代・忠則氏が倉敷村に移住したことから始まります。3代・金基氏が倉敷美観地区内の現在の地に居を構え、1795年に本邸を建築。以後増築を重ね、明治中期にほぼ現在の形が完成しました。土間からはじまり、「みせのま」「いま」「だいどころ」と続く古い商家のたたずまいは、歴史的にもとても貴重な場所です。

建物の内部は長らく非公開とされてきましたが、2018年より一般公開されるようになりました。その背景には、9代目・謙一郎氏のある思いがあります。

蔵を改装し大原家と倉敷の歴史を振り返る年表も展示

謙一郎氏は「大原家は、倉敷の地への誇りと、この地で暮らす人々への深い愛着を原動力に、多くの事業を生み出してきた。そんな大原家の過去を掘り下げ、現在を考え、『あきんど道』とも言うべきその思想を、自分ごととしてそれぞれの未来を創り出すきっかけにしてほしい。この屋敷が持つ『場のチカラ』を、社会のため、倉敷のために役立てたい」と話していたそうです。そして、そのような謙一郎氏の思いが、現館長の山下さんに託されました。

館長の山下陽子さん
語らい座大原本邸」館長の山下陽子さん

山下さん:

大原本邸は、二百余年、大原家が住み継いできた貴重な建物です。だからこそ、本物にしか醸し出すことのできない「場のチカラ」があり、そこに身を置くだけで何かを感じるのではないでしょうか。単なる記念館ではなく、訪れた人が互いに触発され、未来につながる場所にしたい。語らいを通じて新たな発想を得たり、自分を取り戻したり、ときに励まされたり…。そんな何かが生まれる触媒(Catalyger/カタライザー)でありたいという思いをもとにしたネーミングが「語らい座」です。訪れた人が「語らい座」を出ていくときには、これまでなかった“何か”を一つでも得て帰ってもらえたらうれしく思います。

施設のおすすめ撮影ポイントを巡ってみた

「語らい座大原本邸」では、歴史的価値のある建物をできるだけそのままの状態で公開しながら、心に響く表現や展示物も仕掛けられています。編集部が実際に訪問して館内の見どころを紹介します。

 

伝統的なデザインが用いられた主屋

暖簾の右手に見えるのが「倉敷格子」。二階には「倉敷窓」が並びます
白壁に樹影が映えます

倉敷川の畔に建つ主屋は、風情あるたたずまいに注目。瓦の目地に白漆喰を盛り付けたなまこ壁や、親竪子(たてこ)に短い子を組み合わせた倉敷格子、角柄窓形式の枠に竪子を入れた倉敷窓など、伝統的な倉敷町家の意匠を備えています。また、建物のすぐ前の倉敷川畔には桜やもみじが植えられており、季節に応じて建物と木々のコントラストを背景に撮影するのもおすすめです。

歴代当主の言葉がふりそそぐ「みせのま」の土間

玄関を入りのれんをくぐると、薄暗い空間に白い言葉が浮かぶ、独創的な展示が目に飛び込んできます。「強い子になれ」「十人のうち七人も八人も賛成するようなら、もうやらない方がいい」「『誤解される』よりも『理解されない』ほうがむしろいい」など、5代目・壮平氏、6代目・孝四郎氏、7代目・孫三郎氏、8代目・總一郎氏が語った言葉が並びます。ぜひインパクトのある一枚を撮影するとともに、お気に入りのメッセージを見つけてください。

大原家が積み上げてきた歴史を見る「いま」の土間

次の土間には、積み上げられたキューブツリーが鎮座しています。キューブに描かれているのは、歴代の当主の名前や顔写真、交流があった方々など、大原家が積み上げてきた歴史。明るさが緩やかなグラデーションで変わっていく幻想的な演出に、時間を忘れて見入ってしまいそうです。

大原家の暮らしや家族の思いに触れる「だいどころ」の土間

最後の土間では、7代目・孫三郎氏とその妻の壽惠子氏が、長男である總一郎氏に宛てた書簡の文字が障子に映し出されます。厳しくも愛にあふれる言葉が続きます。

この土間はもともと「だいどころ」だった場所で、大きな「おくどさん(かまど)」が残っています。事業のために奔走する当主や家人を支えながら、子どももしっかり育てていたのかな…と、額に汗する壽惠子氏の姿を思い浮かべながら眺めるのも楽しいかもしれません。

また、土間を上がった座敷には、ベヒシュタイン社製の当時のピアノが飾ってあります。月に1回行われている演奏会では、懐かしい音色を楽しむこともできます。

 

石畳の通路

土間を抜けると、石畳に出ます。美観地区に出てしまったかと思いますが、実はまだここも敷地内。主屋と倉が立ち並び、その間に石畳が延びる、風情ある景色が広がっています。通路の奥には、西に倉、東に有隣荘が見え、それぞれを背景にして撮影すると趣の違った写真が撮れます。

離れ座敷

代々の当主がくつろいだという離れ座敷。目の前には、7代目・孫三郎氏が自ら作庭に関わった日本庭園が広がります。松の古木やもみじが立ち並び、その下には青々とした苔が一面に…! 風が吹くたびに木の枝や葉が揺れ、木漏れ日の落ち方が変ってくるのも趣深いです。

また、座敷の中にも、隠れた撮影ポイントがあります。長押の各所にある千鳥型の鍵隠しは、千鳥が飛び回っているように見えるよう、全て違う形をしているのだとか。お気に入りの姿を探して撮影してみてはいかがしょうか。

ブックカフェ

8代目・總一郎氏の書斎をイメージしたカフェスペースです。總一郎氏は読書家で、さまざまなジャンルの書物を読んでいたそう。ここには、彼の好きだった鳥類、民藝関連の書物から、宗教、思想、哲学、経済まで、多彩な蔵書約2,000冊が並びます。今にない重厚な意匠の書物は、見ているだけでも楽しいです。

また、ここでは、数十種類から厳選した豆を使ったオリジナルブレンドのコーヒー(500円)も味わえます。本に囲まれた落ち着いた雰囲気のなか、ほっとひと息つくのもおすすめです。

カフェ内には本以外にも大原家にまつわる興味深い品々が展示されています

山下さん:

本棚の本を読むことはできませんが、カウンター席には一部、總一郎氏が読んでいたものと同じ時代の同じ本をそろえています。ページをめくっていると、ドイツ語で書かれた古い落書きを見つけることも。「どのような人が、どのような思いで読んでいたんだろう?」と、落書き一つから、時代を超えて人と人とがつながることができるのだと感じられました。このことに気付いてから、きれいな状態の本ではなく、落書きのあるものも、あえて置くようにしています。遠い時代の同じ本を読んでいた人に思いをはせながら、明日からもがんばろうと思えたり、悩みが吹っ切れたり、何か新しい力が湧いてきたりしたら素敵ですね。

教育プログラムも実施中

歴史的な「場のチカラ」を触媒に、「語らい」を通じて人と人とが触発し合い、新しい自分に出会うことを目的とした教育プログラムも開催しています。

くらしき未来K塾

学校と地域・企業の結節点を目指し、月に1回開催。多彩な講師を招き、「人づくり」「町づくり」を考えます。年齢もキャリアも異なる人たちが集まることで議論が深まり、より発展的な学びへとつながります。

 

くらしき町家留学

小・中・高・大の学生のほか、新入社員やもう一度日本の文化・歴史を体験・再発見したい大人などが受講可能。歴史的価値のあるこの場所を拠点に、大原美術館倉敷考古館倉敷民藝館などの大原家関連の多様な施設のフィールドワークを開催します。

<山下さんからのメッセージ>

当館では、のれんをくぐると、木の香りや土の匂いとともに二百余年の大原家の暮らしや思いが伝わってきます。時間を超越したこの屋敷で、素敵な雰囲気の写真を撮影したり、庭の花や苔を愛でつつおいしいお抹茶を飲んだり、読書しながら香り高い珈琲を楽しんだり…。日常から離れて、ホッとするひとときをお楽しみください。

まとめ

土間や倉、離れ座敷と、町家建築ならではの風情ある景観が楽しめる「語らい座大原本邸」。時代を超えて今に伝わるその姿は、絵になるのはもちろん、新たな発見や感動を与えてくれる貴重な場所です。今と昔、そして未来をつなぐこの場所ならではのタイムトリップ。ぜひ一度体験してみませんか。

 

語らい座 大原本邸

料金:大人500円(400円)、高校生以下400円(200円)

※未就学児は無料 ※()は20名以上の団体料金

電話:086-434ー6277

営業時間:9:00~17:00 ※最終入館は16:30まで

休館日:月曜・年末年始 ※祝日、振替休日の月曜は開館

住所:倉敷市中央1-2-1

HPhttps://www.oharahontei.jp/

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