近代彫刻界の巨匠・平櫛田中の作品に魅せられる いざ、井原の「平櫛田中美術館」へ!
井原市出身の彫刻家で、近代彫刻界の巨匠・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)。その功績をたたえる井原市の「井原市立 平櫛田中美術館」は、2023年4月にリニューアルされました。今回は、同館学芸員の柳沢綾子さんにお聞きした田中作品の魅力のほか、施設の歴史や見どころなどを紹介します。2024年2月7日から開催中の「鏡獅子20年ぶりの里帰り」の情報もお見逃しなく!
目次
平櫛田中ってどんな人?
平櫛田中は1872年に井原市で生まれ、107歳でこの世を去るまで精力的に制作活動を続けた、近代日本を代表する彫刻家です。西洋の写実表現や日本の古典的な造形技術などを学び、東西の表現形式を融合させた数々の傑作を生み出しました。中でも「鏡獅子」は、約20年もの歳月をかけて完成させた、2mを越える木彫の大作。歌舞伎俳優の六代目尾上菊五郎がモデルとなっており、通常は国立劇場のロビーに展示されています。なお、詳細は後述しますが、現在同作品は平櫛田中美術館に貸し出されています。
2023年にリニューアル! 「平櫛田中美術館」の歴史と特長
前身となる「田中館」が開館したのは1969年。当時、平櫛田中が井原市の小中学校に寄贈していた自作品を保存・展示するため設立されました。1973年には博物館法に登録され「田中美術館」に改称。その後、田中の生誕150周年記念に合わせて新館建設工事を行い、井原市の市制施行70周年という節目を迎えた2023年4月に「平櫛田中美術館」としてリニューアルオープンしました。
館内には誰でも利用できるフリースペースや、講習室、市民ギャラリーなどが併設されています。
実際に館内を見学してみた!
3階建ての館内は、まずは1階展示室、次に3階展示室、最後は2階展示室という順路になっています。
エントランスと2階フリースペース
エントランスホールと2階フリースペース(情報コーナー)は無料開放されたスペースとなっており、誰でも気軽に利用可能。自動販売機も設置されていて、散策の小休止や待ち合わせ場所にもぴったりです。
エントランスホールは高い吹き抜けで、ガラス製のカーテンウォールからは自然光が降り注ぎます。玄関から入ってすぐ左手には鏡獅子の実物大パネルが。このパネルをスマートフォンで撮影すると、360度の「AR鏡獅子」をアプリで鑑賞できます。
2階フリースペース
階段を上って2階のホワイエへ。こちらでは「情報コーナー」としてライブラリーが設置され、休憩や読書をしながら過ごせるスペースです。隣接する日本庭園の「田中苑」がガラス越しに一望できますよ。
1階展示室:代表作「鏡獅子」制作時の試作品や資料を展示
1階展示室は、代表作「鏡獅子」に関連した作品や資料が展示されており、田中が64歳から構想を練り始め、86歳で作品を完成させるまでの過程を知ることができます。
田中は「星取り法」という西洋の技法を用いており、粘土と石こうで作った原型を、専用の機具である「星取り機」で木材にトレースしてから彫り進めていました。展示室には鏡獅子を制作する際に作った石こう原型や、試作したさまざまな鏡獅子が展示されています。
柳沢さん:
「一度、原型から写した木材の寸法が数cm大きかったため『間延びしている』と納得がいかず、原型から作り直したそうです。個人的には、この未完成の木彫から作品に対する意気込みがいちばん伝わってくる気がします」
柳沢さん:
「試作の鏡獅子は、資金を得るために制作・販売されたこともあるそうです。表情や顔の傾きが少しずつ異なるので、見比べながら鑑賞するとおもしろいですよ」
柳沢さん:
「試作頭はブロンズで作られています。木では表現しきれない肩の筋肉の盛り上がりなどの迫力、力強い表現に注目してみてください」
1階展示室:「鏡獅子20年ぶりの里帰り」開催中!
田中の代表作「鏡獅子」が、展示されている国立劇場の建て替えにともない、2024年2月から平櫛田中美術館へ長期貸与され、2029年まで約5年半の間展示される予定です。今回の展示は井原で20年ぶりとなるため、まさに「20年ぶりの里帰り」として大きな話題となっています。
柳沢さん:
「20年前の里帰りが最後だといわれていたので、今回実現してうれしいです。国立劇場ではガラスケースに入っていましたが、ここではケース越しではなく360度ご覧いただけます。一室に鏡獅子のみを展示しており、広い空間を生かしています。」
実際に作品の前に立ってみると、その気迫に圧倒される思いがしました。田中作品のすごさは「一瞬の情景」の表現にあるともいわれています。手の動きや表情などから歌舞伎を踊っている緊張感が伝わってきて、木彫であることを忘れてしまいそうなほどです。
また、作品が2m以上と大きいため、搬入にも苦労したそうです。
柳沢さん:
「作品の像だけで200kg以上もあります。像と台座は分けて運搬しました。擦れや破損がないよう細心の注意を払って運搬・展示しました。」
3階展示室
3階には2つの展示室に加え、平櫛田中記念室、ミニシアター、上野桜木アトリエ(再現)が設けられています。
ミニシアターでは田中に関する映像を上映。作品を見る前に予備知識としてチェックしておくと、より深く鑑賞できそうです。
そして、フリースペース以外で唯一のフォトスポットでもある「上野桜木アトリエ」。田中のために、当時盟友だった横山大観、下村観山、木村武山の援助によって建てられたアトリエを、そのまま再現した部屋です。本棚には田中の愛読した書物が並び、田中が実際に制作で使った星取り機も展示されています。
なお、3階にも展望スポットがあります。見晴らしが良く、庭園の全景を見渡すことができるだけでなく、街の様子もよく見えました。
2階展示室
取材時は、所蔵名品展「彫刻家平櫛田中が出会った人たち」を開催中でした。こちらの展覧会は、田中に影響を与えたさまざまな美術家の作品や、影響を与えた人々をモデルにした作品を5つの時期に分けて展示。2階展示室と3階展示室の一部を使い、2024年5月12日まで開催されていました。5月21日から10月3日まで所蔵名品展「人間国宝ー匠の技ー」が開催されます。
展示作品には 田中の同志でもあった横山大観の作品をはじめ、田中作品の彩色を担当していた彩色木彫家・平野富山の作品、田中の家族をモデルにした作品、後輩の作品など、田中の人生や人柄を感じられるような展覧会となっていました。
所蔵名品展 2階展示室の作品
慶典読書奉仕 平櫛田中
顔は生きていると思うほど作り込まれている一方で、胴体は面でとらえた簡潔な表現になっている点に注目。顔に視線が向くようにバランスを取っていると思われます
所蔵名品展 3階展示室の作品
幼児狗張子 平櫛田中
田中の長男・俊郎がモデル。宮内省に買い上げられ、板垣退助へ下賜されたものです。
姉娘 平櫛田中
田中の長女・幾久代がモデル。ラジオの音に耳を澄ましている場面が切り取られています
ミュージアムショップでオリジナルグッズを入手
1階入館受付の手前にあるショップコーナーには、美術館のオリジナルグッズがそろっています。中でもここでしか手に入らないグッズをピックアップして紹介します。
田中の書がデザインされた手ぬぐい(800円)やマスキングテープ(350円)は普段使いにおすすめです。また、田中に関する伝記漫画(500円)もぜひ。
まとめ
柳沢さん:
「鏡獅子の展示が始まってから、幅広い世代の方にたくさんお越しいただいています。今後は、ワークショップなどお子さま向けの企画もご用意したいと考えています。フリースペースは無料で開放していますので、ぜひお気軽にお越しください」
同施設では、平櫛田中の作品の細部に宿る魂や息遣いを感じることができ、彼の生き様にも触れられます。リニューアルした平櫛田中美術館で、アートに浸るひとときを過ごしてはいかがですか。
平櫛田中美術館
URL:https://www.city.ibara.okayama.jp/site/denchu-museum/
住所:井原市井原町315
電話:0866-62-8787
開館時間:9:00〜17:00(最終入館は〜16:30)
休館日:月曜(祝日の場合は翌日)
常設展料金:500円(15名以上の団体400円)
※特別展は観覧料が異なります。公式HPでご確認ください
※高校生以下、市内在住の65歳以上、身体障害者手帳等を所持している方は無料
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