日本の伝統と文化が感じられる“おもちゃの館” 日本郷土玩具館に行ってみた
倉敷の白壁通りから美観地区へ入り、倉敷川に沿って北へ徒歩約80m。川畔に軒を連ねる白壁の町家が、日本郷土玩具館です。
今回は、館長の大賀紀美子さんと、館長補佐で大賀さんの孫でもある小野暢久さんに館内を案内していただき、一新された設備などの最新情報をはじめとする、施設の魅力を紹介します。
目次
日本郷土玩具館の歴史
日本郷土玩具館は昭和42年に開館しました。
倉敷民芸館初代館長の外村吉之助は、染織家で民芸運動にも参加していました。倉敷紡績(現クラボウ)の創業者・大原總一郎の招致で倉敷に移住した際、空襲を免れたその美しい町並みに心を奪われ、倉敷の民芸や町並み保存に取り組み始めました。活動に共感した大賀政章は、江戸時代から伝わる米蔵を展示室に改装し、全国から郷土玩具を収集したことで日本郷土玩具館が開館しました。
1999年にはサイドテラスと+1(プラスワン)ギャラリーを新設。また2023年10月には、作品が紫外線劣化を起こさないように、すべての展示室の照明をLED照明に変えました。現在はさらなる進化を遂げるべく、大賀さんと小野さんを中心にスタッフ一丸となって、展示内容の充実に取り組んでいます。
大賀さん:
郷土玩具はその土地の生活に密着し、子どもたちの遊びのほか、健やかに成長してほしいという親の願いから生まれたものです。一つ一つ手作りで異なる表情を持つ玩具には、優しさや愛おしさ、時に悲しさも込められています。どんなに時代が変わろうとも受け継がれていく「人を想う気持ち」や「ものづくりの素晴らしさ」を、玩具から感じていただけたらと思います。
小野さん:
伝統を重んじつつ、新しい風にも目を向ける点が倉敷の市民性の一つだと感じています。これは、玩具館を運営する上でも大切にしていきたいことですね。
日本郷土玩具館はどのように見学するの?
玩具館には、中庭を取り囲むように4つの展示室があります。そのほか、おもちゃ・雑貨を販売する「ショップ」や日常使いの器を展示販売する「サイドテラス」、カフェ「柳とはりこ」などを併設。展示室のみ入館料が必要となり、ショップで入館料を支払ってから入館します。
大賀さん:
当館は蔵の特性を生かしているため、空調設備がありません。白壁の土蔵は調湿効果があり、はりこなどの玩具の保存に最適な環境を作り出してくれるのです。
ギャラリー1:全国各地、地方別の郷土玩具、土鈴、鳩笛
ゲートを入って中庭を抜け、まずは左手にあるギャラリー1へ。東北から九州、沖縄まで、全国の郷土玩具を網羅しており、はりこや土人形といった郷土玩具が地域別に展示されています。中には、開館当初に作られた「ほおずき」型の土鈴に、当時学生だった小野さんとご友人が絵付けした、カラフルな土鈴などもありました。
また、中央には桃太郎や倉敷はりこなどを中心に、岡山の郷土玩具が並べられています。
一見、雑多に並べられているように見えますが、人形たちが向き合って遊んでいるように置いてあるなど、遊び心のある展示に注目してみてください。
小野さん:
それぞれの玩具を細部まで見ていただけるように一点ずつフィーチャーする様な展示を行うこともあれば“地域の中で生まれてきたものたち” という点を強調するために群として展示することもあります。
玩具を観察していると、まるで語りかけられているような不思議な感覚になりました。その人形が作られた土地の気候やそこに住む人々の生活習慣、風習を踏まえて人形の表情を見ることで、どのような状況で作られたのかという想像が掻き立てられます。
ギャラリー2:江戸、明治期の土人形など
続いて、中庭に出て奥にある展示館へ。ここでは、江戸・明治期の土人形や、はりこといった玩具などが展示されています。郷土玩具の愛好家で館長と親交もあった吉永義光さんから寄贈されたコレクションも見応えがあります。
ギャラリー3:木の玩具、こけし、独楽など
階段から2階へ上がると、大小さまざまなこけしや独楽などの木製玩具たちが迎えてくれます。中でも、「1時間8分57秒」回ったとして世界最長のギネス記録に認定された大独楽は、前館長が自ら制作したものだといいます。また、ミニサイズの花札やすごろくなどの木製ボードゲームも展示されており、つくりの精巧さに驚かされます。
ギャラリー4:雛人形、天神飾り、凧、面など
さらに奥に進むと、全国各地から集めた多種多様な雛や天神飾り、はりこの面などの郷土玩具が展示されています。また、展示室の正面には、全国各地のだるまがずらり。ショーケース内に整列したミニサイズのだるまはさまざまな形のものがあり、どれも愛くるしい表情がたまりません。
天井に巨大な三条六角凧が吊るされたこちらの展示室は、天井付近の展示品や米蔵の造りもしっかりと見えるようになっています。また、展示作品は蔵の梁や柱などが見えるように位置を調整されているそうです。
作品が購入できるショップスペース「サイドテラス」
1999年には茶室を改装し、中庭に面した明るくモダンなショップ兼カフェスペースが誕生しました。天井を見上げると当時の立派な梁が残されており、この建物の歴史を感じることができます。
壁際や窓際のあたりには、作家による日常使いできる器が並び、日本郷土玩具館と長年親交のある小谷真三・小谷栄次親子が生み出す「倉敷ガラス」の作品が販売されています。
また、カフェの食器には、倉敷ガラスをはじめとした作品が使用されているので、ぜひチェックしてみてください。
カフェ「柳とはりこ」
同じ敷地内にある一棟貸しの宿を運営する「滔々」プロデュースのカフェ。サイドテラスのテーブル席や中庭席で、季節のスイーツとドリンクを楽しめます。不定期営業なので、公式SNSや玄関先に掲示されている営業日を確認しましょう。
この日の「本日の和菓子セット」は、岡山市の人気和菓子店「籠(こ)もよ」のどら焼きと、倉敷市の老舗日本茶専門店「つねき茶舗」のほうじ茶のセット。ほうじ茶が入れられているグラスは石川昌浩作です。
また、「本日の洋菓子セット」は、倉敷市の人気パティスリー「エル・パンドール」の栗のショートケーキとオリジナルブレンドコーヒーがセットになっていました。
+1(プラスワン)ギャラリー
サイドテラスとともに1999年に内倉を開放した、隠れ家的な雰囲気のギャラリー。ガラス・陶器等のクラフト作品を中心とした多種多様な作家の方々による展覧会のほか、展示やワークショップを希望する方に向けたギャラリーのレンタルも行われています。
ショップ
各地のはりこや土人形などの郷土玩具、独楽などの昔ながらのおもちゃを販売。また、「倉敷うまれ」と題し、倉敷の伝統的な材料や技法で作られた、新しい倉敷土産を提案しています。+1ギャラリーの展示や地域の行事に合わせて、ショップ内のディスプレイが変わる点にも注目です。
カラフルな「畳縁(たたみべり)」の雑貨がそろう「FLAT 倉敷美観地区店」
敷地内に店を構えるのは、畳縁のシェア日本一を誇る髙田織物株式会社のアンテナショップ「FLAT」。カラフルな畳縁やハンドメイドの雑貨などはお土産として人気があります。
今まで郷土玩具を知らなかった方はもちろん、よく知っている方もそのコレクションに目を奪われるはずです。常に新しい魅力を発信し続ける日本郷土玩具館へ足を運んで、唯一無二の魅力を味わってみませんか。
日本郷土玩具館
ウェブサイト:https://gangukan.jp
住所:岡山県倉敷市中央1-4-16
TEL:086-422-8058 (平日10:00〜17:00)
営業時間:10:00〜17:00(博物館は最終入館16:40、+1ギャラリーは展覧会最終日のみ16:00まで)
ミュージアムカフェ「柳とはりこ」 12:00〜16:00(不定期営業)
休館日:不定休
入館料:大人600円(500円)、中~大学生300円(200円)、小学生100円(50円)、小学生未満無料
※博物館のみ有料、ショップレジで支払い
※()内は10名以上の団体、障害者手帳を所持する方が対象
※料金は2024年1月時点
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