画聖・雪舟ゆかりの地「井山宝福寺」で 風情感じるひとときを過ごそう

水墨画の巨匠・雪舟が少年時代に修行したという井山宝福寺。今回は、開運スポットや座禅体験ができる場所としても注目されている井山宝福寺の歴史や雪舟伝説、散策時に知っておきたいポイントについて、住職の小鍜冶(こかじ)さんに詳しく伺いました。

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雪舟伝説ゆかりの場所「井山宝福寺」

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JR総社駅から車で10分ほどの緑豊かな地に立つ井山宝福寺。臨済宗東福寺派の禅宗寺院で、隅々まで手入れの行き届いた境内は静寂に包まれ、心癒される清らかな気配に満ちています。

住職の小鍜冶(こかじ)さん
井山宝福寺 住職の小鍜冶(こかじ)さん

小鍜冶さん

寺の創立は平安時代とされていますが、詳しい年代は分かっていません。鎌倉時代に当時の住職・鈍庵(どんあん)和尚が、もともと別の場所にあった天台宗の古寺を現在の地に移し、伽藍を建立したことが寺の始まりだと伝わっています。またその頃に、禅宗である臨済宗に改宗し、七堂伽藍(しちどうがらん)を整えた威厳のある寺院となったともいわれています。

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七堂とは、山門・仏殿・法堂(はっとう)・庫裏(くり)・僧堂(禅堂)・浴室・東司(とうす)の7つの建物のこと。これらの同塔を中心に伽藍を形成することが、禅宗寺院の特徴です。

小鍜冶さん

東福寺派の中本山として布教の拠点とされ、当時は山外の末寺が300余りあるほど隆盛を極めていたそうです。ただ、当時の建物は戦国時代の備中兵乱の際に、ほとんどが焼失してしまいました。現在境内にある建築物は、戦禍を逃れた三重塔など以外のほとんどは代々の住職が苦心を重ねて再興したもので、江戸期以降に建てられたものです。

また、井山宝福寺は、雪舟が幼少時代に修行をした寺としても知られています。寺には、雪舟にまつわる以下のような伝説が残されています。

雪舟は厳しい修行中に、絵ばかり描いていたため師僧にとがめられ、反省のために方丈(※)の柱に一日中縛られていました。日が落ちて暗くなった頃に師僧が様子を見に行くと、雪舟の足元に大きなネズミが。師僧が慌てて近寄ると、それは雪舟が自身の流した涙を使い、足の指で板敷に描いたものでした。

 

※禅宗寺院において、住持(その寺の長である僧)の居室を意味し、仏事法要など公式行事の場ともなる

雪舟は日本だけでなく、水墨画の本場・中国をはじめ、世界にその名が知れ渡っている人物。そんな雪舟が「初めてその才能を他者に見抜かれた歴史的な瞬間」をとらえた伝説の舞台が、井山宝福寺なのです。

小鍜冶さん

ちなみに、来訪してくださった方からよく「雪舟が縛られていた柱はどの柱ですか?」「ネズミが描かれた床はどこですか?」と聞かれるのですが、残念ながら雪舟が縛られていた柱があったと伝わる当時の方丈は、備中兵乱時に焼失し残っていません。ただ、唯一戦禍を免れた三重塔は室町時代前期に建てられたもので、雪舟が修行していた時代にもあったと思われます。三重塔を見上げ、「雪舟さんも、辛い修行をしながらこの塔を眺めていたのだな」と、思いをはせてもらえたらと思います。

三重塔

実際に境内を散策してみた!

井山宝福寺を訪れる際に知っておきたい、境内の建物の特徴や、散策時にチェックしたいポイントを紹介します。

庭園と境内

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同寺院は紅葉が見事な寺としても知られており、毎秋境内を2,000本以上もの「楓紅葉(カエデモミジ)」が鮮やかに彩ります。白砂が印象的な方丈前庭の枯山水は、住職が自ら築造。眺めていると、自然に心が静まっていくような凛とした佇まいが印象的です。

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小鍜冶さん

禅宗の庭はとても簡素で、「舐めるように」と例えられるほど庭掃除を徹底しているのが特徴といえます。また、当寺の特徴とも言える楓紅葉は、来訪者に喜んでいただければとの思いで先々代の住職の代から植え始め、毎年数を増やし続けています。おかげさまで、毎年紅葉の時期になると、境内が人でいっぱいになるほど大勢の方がいらっしゃるようになりました。

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ちなみに、たくさん植えてある楓紅葉の中に5本ほど、京都の本山・東福寺から譲り受けた貴重な「三つ葉の楓」があるそう。願い事を書いた紙をこの「三つ葉の楓」の葉2枚で挟んで持っていると、その願い事がかなうといわれています。ぜひ、紅葉する11月中旬から下旬頃に、落ち葉を探して試してみてください。

また、最近は紅葉だけでなく、新緑を楽しみに来られる方も多くなっているそう。季節ごとに移り変わる寺の表情を楽しめますよ。

仏殿

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江戸時代の1735年頃に建てられたという仏殿には、寺のご本尊「虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)」が安置されています。虚空蔵菩薩は知恵の神様として知られ、学業成就のご利益もあるとされていることから、合格祈願に訪れる受験生も多いそうです。

丸柱と細工をした石
瓦を敷き詰めた床

小鍜冶さん

当寺の仏殿は、江戸期建立の建物ですが、戦乱で焼失してしまった鎌倉期の仏殿の建築様式に沿って再建されているのが特徴といえます。柱は角柱ではなく丸柱で、柱の下には細工をした石を配し、床には瓦を敷き詰めるといったように、鎌倉時代に成立した禅宗仏殿の建築様式を今に伝えています。

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また、江戸時代の画僧が仏殿の天井に描いた、水墨淡彩の龍の絵も有名です。今にも動き出しそうな迫力ある姿に圧倒されます。

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小鍜冶さん

「水呑み龍」と呼ばれるこの絵は、「毎夜、仏殿前の白蓮池の水を飲むために抜け出てくる」といわれて人々に恐れられ、目に釘を打ち込まれたという逸話が残っています。

如意輪観音(にょいりんかんのん)

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如意輪観音は、鎌倉時代にこの地へ宝福寺を開山した鈍庵和尚が、隠居後に信仰した石仏。意のままに知恵や財宝・福徳をもたらす如意宝珠と、煩悩を破壊する様子を表した法輪を持ち、縁結びの観音様として祭られています。

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ハートの形に見える白蓮池
ハートの形に見える白蓮池

小鍜冶さん

雪舟伝説にちなんで可愛らしい2匹のネズミを描いた、良縁祈願にぴったりの絵馬をつるすこともできます。祠の前にはハートの形に見える白蓮池もあることから、「縁結びの開運スポット」として、さまざまなメディアによく取り上げられています。

ご朱印帳とお守り「雪舟の涙」

同寺では、岡山ならではの素材を使ったご朱印帳や、雪舟にちなんだお守りも人気を集めているのだとか。

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先々代の住職が描いたネズミの絵を表紙にあしらったご朱印帳には、倉敷帆布が使われています。岡山が誇る備前焼で作ったお守り「雪舟の涙」は、雪舟の涙とネズミをモチーフにした形で、見た目も愛らしいので、置物のように飾る方も多いようです。

ご朱印帳の表紙のネズミの絵は先々代の住職によるもの

小鍜冶さん

ちなみにネズミは、小回りが利き、よく働き、何でも巣にため込む習性があります。そのため、日本では古くから縁起が良い動物とされ、「学業」「子宝」「商売繁盛」「家内安全」のご利益があるといわれているんですよ。

まとめ

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美しく掃き清められた境内に趣あふれる建造物が点在する井山宝福寺。そこに佇むだけで心がほっと安らぐような癒し度満点のスポットでした。室町時代に活躍した雪舟に思いをはせたり、縁結びの神様に願い事をしたり、見事な紅葉を眺めたりと、さまざまな楽しみ方ができるのも同寺院の魅力です。

小鍜冶さん

寺の一帯を意味する「伽藍」(がらん)とは、もともとは仏様がいらっしゃる「清浄(しょうじょう)の世界」を意味する言葉です。つまり、寺とは本来人の心を癒す場所なのです。ですから、山門を入って境内をただ歩くだけで、慌ただしい日常生活を離れ、心に安らぎを感じてもらえるような場でありたいと願っています。またこの寺は、元修行専用道場ということから、予約制で座禅の体験を受け付けている希少な寺でもあります。「座禅=厳しい修行」というイメージを持つ方が多いのですが、実は座禅は誰でも気軽に参加できるもの。座禅を通じて心を整える癒しの時間を、ぜひ体感していただければうれしいです。

座禅は、予約制の座禅体験以外にも、毎月第2日曜に行われている定例座禅会、毎年8月1~5日に実施されている暁天座禅といった予約不要で参加できる座禅会もあるそうです。座禅に興味のある方は、ぜひ寺のホームページで詳細をチェックしてみてください。

井山宝福寺

URLhttp://iyama-hofukuji.jp/

住所:総社市井尻野1968

電話:0866-92-0024

参拝時間:5:00〜17:00

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