瀬戸内を代表する邸宅 ロケ地としても有名な「旧野﨑家住宅」を散策してみた!
古くから繊維産業で栄え、近年は「国産ジーンズ発祥の地」としても国内外から脚光を浴びている倉敷市児島。実は繊維産業と並んで、製塩も盛んだったことはご存知でしょうか。その中心を担っていたのが、児島に塩田業を興し町の繁栄に大きく貢献した「野﨑家」です。
今回は、当時の暮らしぶりや塩田業の様子をうかがい知ることができる「旧野﨑家住宅」を実際に訪問。同施設スタッフである三宅 功一さんのガイドを交えながら、その見どころや歴史についてレポートします!
目次
江戸時代に一代で塩田業を興した野﨑武左衛門
敷地面積は約3,000坪、建物の延床面積は約1,000坪ある、本瓦葺(ほんかわらぶき)の母屋郡と表書院、6棟の土蔵のほか、茶室3棟からなる国の重要文化財建造物『旧野﨑家住宅』。その広さだけでも、当時の繁栄ぶりが容易に想像できます。
野﨑家が塩田業を興したのは江戸時代後期のこと。施設管理を務める三宅さんは「初代当主の野﨑武左衛門が、48haに及ぶ塩田を開いたのが始まりです」と話します。当時の児島には、そこまでの規模の塩田はなく、先駆的な事業だったのだそう。
三宅さん:
元々野﨑家はこの辺りの地主だったのですが、先代が事業に失敗してしまいました。しかし武左衛門は、足袋の販売で事業の成功を収め、その資金を元手に塩田開発に乗り出したんです。年間を通じて晴天が多く穏やかな瀬戸内の気候が塩作りに適していたこともあり、1代で161haもの塩田を有する大塩田地主に成長。苗字帯刀を許されるほどの繁栄を成し遂げたんですよ。
武左衛門が築いた塩作りの基盤と精神は、現在も「ナイカイ塩業株式会社」のもと脈々と受け継がれています。とりわけ「味の素KK」とのパートナー企業として製造販売する「瀬戸のほんじお」は、日本の食卓に欠かせぬ存在となっています。
ここだけは外せない!「旧野﨑家住宅」の厳選見どころ
「旧野﨑家住宅」が立つのは、レトロな街並みの中に、数多くの岡山デニムのショップが居並ぶ人気スポット「児島ジーンズストリート」の一角。両脇を緑に囲まれた石畳と、その先に続く壮麗な門がひときわ存在感を放っています。
築約190年の「旧野﨑家住宅」。国の重要文化財建造物に指定されているだけあって、全てが見どころなのですが、ここからは三宅さんイチ押しの厳選スポットをご紹介します。
琴のような音色に癒される「水琴窟(すいきんくつ)」
水琴窟とは、日本庭園の装飾の一つで、地中に埋められた甕(かめ)の中の水面に滴り落ちた水が当たることにより、澄んだ音色が反響して聞こえてくる仕組みのもの。ここでは、音色が聞き取りやすいように竹筒が設けられています。
三宅さん:
人が少ない静かな時には、近くにいるだけでもちゃんと音色を聴くことができる、癒されスポットです。
17mの一本物アカマツ「縁桁(えんげた)」
表書院の縁側の軒先に設けられた「縁桁(えんげた)」といわれる横木に注目を。
三宅さん:
屋根を支えるとても重要な部分なのですが、17mの一本物のアカマツは、現在はもちろん当時からかなり希少価値の高いものだったようです。ぜひ軒下を見上げて眺めてみていただきたいです。
ちなみに、表書院とは現在でいう客間に当たるもの。当時の客人もきっとその見事さに驚かされたことでしょうね。
掛け軸は遥か彼方に⁉ 42m続きの「主屋」
9室の座敷を見通す「主屋」はまさに圧巻です。初代当主・野﨑武左衛門や家族、従業員が生活・仕事をしていた場所で、中央付近に設けられた土間を含めた全長はなんと42m!
三宅さん:突き当りの座敷には掛け軸が掛っています。それが何の絵柄か判別できる方は、相当な視力の持ち主といえるでしょうね(笑)。
実は貴重な主屋の「ガラス戸とランプ」
圧巻の開放感ばかりに目を奪われがちな主屋ですが、縁側の戸や屋根下に施された「ガラス」や、天井に取り付けられたランプも見どころです。
三宅さん:
主屋自体は築約190年と施設内で最も歴史あるものですが、明治時代に入って縁側の木戸や屋根下の漆喰の壁の一部にガラスが用いられました。吹きガラスで作られた窓は離れた場所から眺めると揺らいで見えるのが特長。これは現在ではなかなか再現できない貴重なものです。また、時代背景を考えるとランプもすごいんですよ。というのも、植物油やロウソクの明かりが主流だった時代に、ここではすでに自家発電装置を導入し、ランプで生活していたんです。繁栄ぶりと同時に、常に新しいものを取り入れる先駆的精神が感じられます。
一枚だけある扇を探せ! 備前積みの「石垣」
「備前積み」と呼ばれる、石垣は見逃せないスポットのひとつです。高さ12m、全長50mあり、人力によって積み重ねられました。まるで機械を用いて作業したかのような、隙間のない丁寧さに驚くこと必至です。なお、四角くカットされた石が規則正しく積み重なる中に、一枚だけ扇型のものが組まれているのだとか。
三宅さん:
縁起を担いで施されたものなので、見つけられるといいことがあるかもしれませんね。ぜひ探してみてください。
家一軒が建ちそうなほど広いスペースの「台所」
多い時で、家族のほかに50人ほどの使用人が働いていた「旧野﨑家住宅」は、台所も桁違いの広さで、なんと43坪もあるそう。そんな家一軒が丸ごと入るほどのスペースには、当時の調理器具や食器類が多数展示されており、あらゆる世代の人から好評のスポットです。
三宅さん:
トースターやワッフル製造機、アイスクリーム製造機や井戸水で冷やす仕組みの石で出来た冷蔵庫など、当時は希少で高価だったものも多数展示しています。間近で鑑賞してみてくださいね。
無料塩作り体験もできます!
施設内に併設の「塩づくり体験館」では、土鍋と卓上コンロを使って、無料で塩作り体験を行うことができます。一週間前までの予約が必要で、所要時間はおよそ30~40分。一人からでも申し込み可能。出来上がった塩はそのまま持ち帰ることができますよ。
「ミステリと言う勿れ」「犬神家の一族」のロケ地にも!
歴史的観点からも価値が高い「旧野﨑家住宅」は、近年映画やドラマのロケ地にも採用され、新たな注目を集めています。なかでも、菅田将暉さん主演の映画「ミステリと言う勿れ」では、主屋をはじめ、施設内の多くの場所でロケが行われたことにより、若年層への認知度が格段にアップ。多くの若者が訪れるきっかけとなりました。また、吉岡秀隆さんが金田一耕助役を演じるドラマ「犬神家の一族」(NHK BSで放送)でも、重要なシーンでロケ地として利用されています。
三宅さん:
今なら菅田将暉さんや吉岡秀隆さんのサイン色紙も展示していますので、ぜひお気軽に足を運んでみてください。
今回紹介した場所以外にも、手入れの行き届いた枯山水の庭や、樹齢200年を超す大木、趣深い3つの茶室、五右衛門風呂など 、見どころは数知れず。また、なまこ壁の立派な土蔵では、当時塩田で使用されていた作業道具や初代当主の写し絵などが展示されており、野﨑家の歴史を通じて江戸から現在まで続く塩作りの様子を知ることができますよ。初めての人もリピーターも、施設内をじっくり回って、自分だけのお気に入りスポットを探してみてくださいね。
児島ジーンズストリート散策も
旧野崎家住宅の道を挟んでお向かいには桃太郎ジーンズ 児島味野本店が、旧野崎家住宅を正面に見て右隣にJAPAN BLUE JEANS児島店があります。どちらも児島ならではの本格ジーンズを扱うお店で、雰囲気のある店舗の外観、内装も目を楽しませてくれます。隣接するCAFÉ JAPAN BLUEで、ひと休みして児島市民交流センター方面に歩くと丁度よいジーンズストリート散策ができます。
今回の取材先について
旧野﨑家住宅
住所:倉敷市児島味野1-11-19
電話:086-472-2001
営業時間:9:00~16:30(17時閉門)
休館日:毎週月曜(祝日であればその翌日)、年末年始(12/25~1/1)
料金:<一般料金>大人(高校生以上)500円、小中学生300円、幼児無料
※小中学生、高校生の場合、土日祝は無料
※障害者手帳をお持ちの方は2割引(本人と付添人1人)
※30人以上の団体の場合、一般料金の2割引
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