倉敷 喫茶店へGo!  No.002 猫店長とコーヒーと優しいママさん「珈琲ウエダ」

倉敷美観地区の一角。駅から商店街のアーケードを抜けてすぐ、ふと目に飛び込んでくる「カメラ ウエダ」のオシャレな看板。けれど、お店は写真館ではなく、温かな香り漂う喫茶店――それが「珈琲ウエダ」です。果たして写真屋さんなのか喫茶店なのか。

常連さんの声 「モーニングは昔は午前中だけだったけど、今は一日中食べられるようになったんです。常連の“お昼でもできる?”という声に応えてくれる柔らかさが嬉しい」 「味も雰囲気も変わらないから、何十年も通い続けています。観光で来た友人を連れてくると、みんな“いいお店だね”って言ってくれます」

カメラから喫茶へ、時代を超えた転身

「ウエダ」の創業は昭和37年。信州から移り住んだご一家が写真館として開業しました。写真は白黒からカラーへ。時代の流れの中で、店主がもともと大好きだったコーヒーに導かれ、昭和47年頃に喫茶店へと歩みを進めます。
写真館の名残として残された看板は、60年以上経った今も現役。観光客からも「残してほしい」と声が多く、街のシンボルのような存在です。

ちょっと懐かしい喫茶店の看板にも「coffe & Photo」の文字が。色使いもロゴタイプもおしゃれです

ママの手作り、変わらない味

店内では、懐かしい食品見本がお出迎え

「珈琲ウエダ」といえば、まず挙げたいのがママさん手作りのカレー。50年以上レシピが変わらない“家庭の味”で、常連も観光客も惹きつけてやみません。
それ以外にも、ふわりと卵で包んだクラシックなオムライスや、分厚いあんバタートースト、ホットケーキ、ぜんざい……。どれも懐かしく、どこか安心できるラインナップ。「あん」はなんとママさんの手作り。さらにモーニングは一日中注文可能。遅い朝を過ごしたい人にも嬉しいサービスです。

メニューはお店の前にも。

メニューは惹かれるものばかり。隣の席の人のあんバタートーストも気になるし、食べたいものばかりで決められない(笑)。この日、ママさんに「今日のおすすめは?」と尋ねると、返ってきたのは「オムライスかな」の一言。あれ?カレーじゃないの?と思いましたがここはママのおすすめをいただきます。カレーは次回のお楽しみ。

運ばれてきたのは、ふんわり卵で包まれたクラシックな一皿。トップには香ばしいカリカリのフライドオニオンが散らされ、カリカリの食感がいいアクセントに。

さらにサラダと味噌汁付きというスタイル。特にカップに入った味噌汁が、洋食のオムライスとよく合い、「和」と「洋」が肩を並べる喫茶店ならではの一品でした。

スプーンを入れるとケチャップライスの香ばしさと卵のまろやかさ、フライドオニオンの食感が合わさり、どこか懐かしくもしっかりとした満足感。コーヒーとの相性も抜群です。

コーヒーへのこだわり

ウエダを語る上で欠かせないのがコーヒーです。もともと創業したお父様が“コーヒーとジャズが大好き”で、横浜での写真修行時代からカフェ文化に親しんでいたことが、この店の礎になっています。創業当初から、長年愛用していたコーヒー豆が製造終了となった際も仕入元と相談し、なるべく味の近いブレンドを選び、安定した味を守り続けています。

常連さんは「この大きくてしっかりしたカップでコーヒーをいただけるのが嬉しい」と話してくれました。香り立つ一杯とともに会話が始まり、自然と時間がゆったりと流れていきます。

看板以外にも実は情報量多すぎのお店

喫茶ウエダが入る建物は、もともと時計屋として建てられたもの。アーチのバルコニーや柱、窓とカーテンなど、クラシックな意匠を随所に残しており、今では再現が難しい希少な技術で作られています。倉敷の街並みに溶け込みながらも、モダンクラシックな独特の存在感を放っています。

窓から見える大きな岩。そして店内にも岩!?

巨岩を眺めながらのコーヒーもまた格別

店の奥へ進むと、奥の窓から大きな岩が見えます。そしてさらにキッチンの奥の壁一面には巨岩の断面が現れます!店内の壁面に自然の岩肌をそのまま活かした造りは珍しく、喫茶店にいながら“地層と共存する空間”を味わえる特別な場所。かつてはライトアップもされていたそう。この岩、「ひょんなげ百景」にも選ばれた「ぬめり岩」だったのです。いやー、ウエダさんには通っていたのに、この岩には気が付かなかった!

厨房の奥の壁には本物の「ぬめり岩」が顔を出す大胆設計

89歳の現役ママさんと猫店長マヤちゃん

見よ!この堂々たるフライパンさばき。オムライス美味しゅうございました。

朝6時45分にはお店に入り、今も現役で厨房に立つママさん。なんと御年89歳。声がよく通るのは、30年以上続けてきたシャンソンのおかげだそう。健康の秘訣は「早起きと、お客様とよくしゃべること」。その笑顔とおしゃべりを楽しみに通う常連も多いのだとか。

「お客様に食べていただけるから、私も元気をいただいています。感謝の気持ちは忘れません。これからも“いつもの味”を大事に続けていきますよ」

そしてもう一人の“店長”は看板猫のマヤちゃん。SNSで見て「マヤちゃんいますか?」と訪れる人もいるほどの人気者で、店先で写真を撮っていく観光客も絶えません。

取材時は休憩中だった「店長」。お店の前で呼び込みをすることもあるという
さらにこの店は、倉敷を舞台にしたアニメ 『RE-MAIN』 の舞台にも選ばれました。NHKでも紹介されたことで、全国からアニメファンが訪れるきっかけになったのだとか。ママさんは「少し年季が入ってきたけれど誇らしい」と語ってくれました。

「ウエダ」は、ただの喫茶店ではなく「時代の物語を受け継ぐ場所」。優しいママさん、かわいい猫店長、魅力的なメニュー、謎の看板、店内にそびえ立つ巨岩、実は情報多すぎの素敵なお店です。倉敷を訪れたらぜひ立ち寄りたい一軒ですね。

次の「倉敷 喫茶店へGo!」では、また別の喫茶店でお会いしましょう。
それでは、よき一杯を――。

編集部おすすめポイント

  • 50年以上変わらぬママの手作りカレーとクラシックなオムライス
  • 香り高いコーヒーと共に楽しむ昔ながらの喫茶時間
  • 巨岩を取り込んだ希少な店内空間と、クラシックな建物意匠
  • 89歳の現役ママさん&看板猫マヤちゃんの温かいおもてなし

ウエダ


所在地:倉敷市阿知2丁目25−43
定休日:月曜日(祝祭日は営業)
駐車場:なし

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