~倉敷の街中でロマンティックナイト~ 気軽に星空体験を楽しめる「倉敷天文台」とは?

倉敷駅から徒歩約15分。美観地区のほど近くに天文台があることをご存知ですか?日本で最初の民間天文台として誕生した歴史を持つ「倉敷天文台」は、2026年で開館100年を迎えます。同天文台の主事を務めたアマチュア天文家の本田實をはじめ、これまでに大勢の天文愛好家に利用されてきました。そして大正、昭和、平成、令和に至るまでの天文学普及に多大な貢献などから2023年度の日本天文遺産に認定されています。

また現在は、夜間に実施されている体験プラン「天文台ロマンティック・ナイト・チェアリング」も好評です。

このドーム状の建物が日本で初めて設立された民間天文台で、現在は原澄治・本田實記念館として公開されています

今回は職員の深田昌史さんと「くらてんコンシェルジュ」の大浦翔太さんに、施設の見どころや、実施中の体験プランの詳細などをお聞きしました。

大浦翔太さん(左)と深田昌史さん(右)。背景の掛け軸は本田氏の天体に関する詩

スタートは大正時代!? 倉敷天文台誕生からこれまで

大正時代、国内の天文台は全て官立(現在の国立)だったため、一般市民は利用できませんでした。そこで、アマチュアの天文家であった水野千里らが「晴天日数の多い岡山に天文台を作ろう」という「天文台運動」を実施。1926年に、地元の実業家だった原澄治が出資する形で、全国初の民間天文台として「倉敷天文台」が創設され、無料で開放されました。

1952年頃の倉敷天文台(本田實氏撮影)

創設当時のメンバーは原澄治と水野千里のほか、天文学者の山本一清、中村要、宮原節の計5名でした。その後1941年には、当時28歳だったアマチュア天文家の本田實氏が主事に着任。敷地内の官舎を自宅とした本田氏は、さまざまな新星や彗星(すいせい)を発見しました。

そして1993年には、1952年に建造した5mドームを「原澄治・本田實記念館」として開館。観望室と事務棟は2013年に新築され、さらに2022年には、本田氏の自宅を改装したカフェがオープンしました。日によってはコワーキングスペースやBARとしても営業しています。長い年月を経て、たくさんの人が集い交流する場になりました。

敷地内には天文台(現在は原澄治・本田實記念館)のほか、事務棟の「彰邦館」や星を観望する「観望室」、本田氏の自宅を改装したカフェ「星の光の澄みわたり」があります 。

観望室と彰邦館

星を観察する際に使用するのは、観望室と呼ばれる場所。事務所兼多目的室の「彰邦館」が隣接しています。「彰邦」とは原氏の号(今でいうペンネームのようなもの)です。2棟とも2013年に建て替えられており、当時の観望室はライフパーク倉敷に移設・復元されています。

星を観察する「観望室」

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取材当日は冷え込んでおり、澄みきった美しい星空が眺められそうな天候。「今日は木星が見えますよ!」という深田さんの言葉に、ワクワクが止まりません。星を観察する際には、本田氏が実際に使っていた15cmの対空型双眼望遠鏡と、31.5cmのカセグレン式反射望遠鏡を使います。

閑静な住宅街の中にある倉敷天文台。取材した当日はきれいな月が出ていました

その日は、反射望遠鏡から木星のしま模様だけでなく周囲のガリレオ衛星まで見ることができました。双眼望遠鏡で見える月などはスマートフォンで撮影することもできるそうなので、気になる方はぜひ挑戦してください。

原澄治・本田實記念館

記念館の入口には、「倉敷市指定 歴史資料 天体望遠鏡」の立て札
1階には当時の機材と資料が展示
星空を撮影したフィルムも大量に保存してあります
本田氏の愛用した星空のスケッチ集。彗星と間違いやすい星団星雲が記されている
戦中から戦後にかけて本田氏が愛用した木製の反射望遠鏡筒
階段から2階へ上がると天文台のドームが見えます
記念館2階のドーム内部
ドームの内側は板張り

前述した通り、1952年に建造した5mドームを1993年に記念館としてリニューアル。

 1階には本田氏ゆかりの品々を展示。新星や彗星を発見した際の記念メダル、愛用のカメラ、使いやすいよう独自に編集した星図、直筆の詩作品、自作の望遠鏡などを見ることができます。

32cm反射望遠鏡と12cm屈折望遠鏡
昭和4年の雑誌誌面。「日本で唯一つの民衆天文台」「わが国唯一の私設天文台」などの見出しが確認できる
本田氏による天体をテーマにした直筆の詩

2階は原氏ゆかりの品を中心とした展示室です。設立時に購入した32cm反射望遠鏡と、12cm屈折望遠鏡が保管されています。また、「天文台運動」を報じた新聞記事や文献などもあるため、創設時のさまざまな記録を見ながら、創設当時に思いをはせることが可能です。

記念館の資料と深田さん

深田さん

ここはアマチュア天文家にとって聖地のような場所です。月や土星を望遠鏡で初めて見る方はきっと感動されるでしょう。倉敷の方でもこの天文台を知らない場合が多いので、ぜひたくさんの方にお越しいただきたいですね。

天文カフェ 星の光の澄みわたり

2022年4月にオープンしたカフェ「星の光の澄みわたり」のメニューはドリンクとスイーツがメイン。店名は本田氏の詩作品の一節から名付けられています。

店内には本田氏が実際に使っていた家具や愛用品を配置。当時の雰囲気を残したレトロで落ち着いた空間となっており、天体をモチーフとしたデザインの照明が、周囲を優しく照らします。ソファ席のほか、壁際や窓際には一人用席も用意されていますよ。

また本棚には本田氏の収集した本が並んでおり、中には貴重な天文書もあるため、天文ファン必見です。

ソファ席に有るこちらのテーブルには、ある秘密が
裏側には何と、1952年に天文学者の村山定男氏が来訪し、このテーブルの上で3つの隕石を並べて説明した、との本田氏による書付が。

大浦さん

昼間のカフェタイムは学生さんがたくさんいらっしゃいます。夕方からのコワーキングスペースは、お子さまを近隣の塾に送迎した保護者の方が待ち時間に利用されるほか、帰宅ラッシュの時間をやり過ごすため仕事帰りに立ち寄る方などもいらっしゃいます。また、ゆっくり読書を楽しみたい方のご来店も多いです。さまざまな過ごし方でおくつろぎいただけますので、ぜひ気軽にご利用ください。

 

星空を見上げて非日常を味わえる体験プランもおすすめ

倉敷天文台では、観望室を1時間貸し切ってくつろげる体験プランも人気です。現在実施されている「天文台ロマンティック・ナイト・チェアリング」は、くらてんコンシェルジュの大浦さんが企画した、「星を観る体験」よりも「星空を見上げる時間」にこだわったプラン。星に詳しくなくても楽しめると、若い世代や旅行客に好評だそうです。

 

レッドカーペットを歩いて観望室へ。特別な時間がはじまりそうです

同プランは、天文台の入口に集合するところからスタート。大浦さんがランタンの明かりとともに出迎えてくれます。そこから敷地内を抜けてレッドカーペットが敷かれたスロープを歩き、観望室へと入室します。

スライド式の天井がゆっくりと開くと…
少しづつ空が見えてきます

大浦さんのアテンドで、暗闇の中インフィニティチェアーに着席します。そのままゆっくりとリクライニングして、仰向けに近いリラックスした体勢に。すると、観望室のスライディングルーフがゆっくりと開き、目の前に美しい星空が広がるのです…。

月の明るい夜でしたが木星とオリオン座がはっきりと見えました
ゆったりとリラックスした姿勢で星を眺められるインフィニティチェアー。ブランケットもあります
大きくリクライニングできるので星空をゆったりと眺めることができます

ビールやソフトドリンクとおつまみを味わいながら、望遠鏡をのぞいたりボーッと夜空を眺めたりと、各々の楽しみ方で非日常な1時間を過ごせるのが本プランの特長です。

雨天の場合は原澄治・本田實記念館を案内しながら見学するコースに変更となります。

望遠鏡を操作する大浦さん
大浦さんにお手本を見せてもらいました。接眼部に上手にスマホのレンズを合わせると…
こんなにくっきりとした月の写真が撮影できました

大浦さん

県外からこの体験を目的にお越しになる方もいらっしゃいます。市街地の中心部、活気のある観光地の中に、こんなにも静かでロマンチックに星空を楽しめる場所があることを、もっと広く知っていただきたいですね。

倉敷天文台は街の中にある珍しい天文台です。そして、この倉敷天文台に関わってきた人たちの思いに触れることができる唯一無二の場所でもあります。歴史ある民間天文台の魅力を現地で感じてみませんか。

倉敷天文台

ウェブサイトhttp://kuraten.jp/

住所:岡山県倉敷市中央2-19-10 

TEL:086-422-4589(奨農土地株式会社 内 倉敷天文台事務局)

記念館見学可能日:火・水・木曜(祝日は除く)

営業時間:13:00〜17:00 

※記念館見学、観望申込みは要予約(HPから)

入館料:無料

インスタグラムhttps://www.instagram.com/kurashiki_tenmondai/

天文台ロマンティック・ナイト・チェアリング

実施時間:1部18:30〜19:30、2部20:15〜21:15 、3部22:00〜23:00

料金:大人1名(10歳以上)1時間 3,500円(2〜4名まで)

申込は公式サイトから

※星の光の澄みわたりやCoworking Space ASTRO at 倉敷天文台の営業日に関しては、それぞれのインスタグラムをご確認ください。

 

<星の光の澄みわたり>

インスタグラム: https://www.instagram.com/hh_sumiwatari/

         

<Coworking Space ASTRO at 倉敷天文台>

インスタグラム: https://www.instagram.com/astro_coworking/ 

料金: 1日 1,500円   1時間500円※ドリンクは別料金

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