ひょんなげ百景 NO.035 工場地帯にある巨大石組「板敷水門」
倉敷市街から南へ向かう水島臨海鉄道。その貨物路線に沿った海辺に不思議な石組みがあると聞いて、現地に向かいました。車を降りて歩いていくと線路脇に石で組まれたの大きな穴があらわれる。しかもその穴、どう見ても道じゃない。水門ということなのだが……妙にでかい。
……これ、なに?
江戸後期の“ガチ干拓インフラ”
調べてみると、これは板敷水門(いたじきすいもん)。1849年(嘉永2年)、江戸時代後期の干拓事業「福田新田」のためにつくられた、水門兼・堤防インフラである。
幅10メートル、深さ6メートルの石垣が、どっしりと地面に食い込んでいる。素材は花崗岩。そして仕上げは、石を精密に削り合わせる高度な技法、切り込み剥ぎ(きりこみはぎ)。石と石がぴったり合っていて、隙間が見えない。あのマチュピチュ遺跡の石組みを思い出すほどの精密さ。江戸時代にこれを作ったってどういうこと?江戸の公共工事、やる気がすごい。
当時の干拓は、土地を作って終わりではない。海に近い低地では雨が降ればすぐ水がたまり、農作物どころではなくなる。それを排水するために、福田新田には三つの水門がつくられた。板敷水門はそのひとつ。石垣には築造年や施工に関わった人々の名前が刻まれていて、当時の公共事業のリアルが見て取れる。いまで言うなら、「干拓エリアの排水センター 第○ゲート」みたいな存在。
干拓が終わった後も、この水門は残り続けた。工場建設などで周辺の施設がどんどん姿を消したなか、当時の姿をほぼそのまま残している貴重な史跡でもある。
でも現地は、とても静か。説明板も控えめで、観光地っぽさはゼロ。「見に来てくれてありがとう」と言わんばかりに、風の音と水のせせらぎが迎えてくれる。
日本遺産に選ばれる“静かな石壁”
板敷水門は1995年に倉敷市指定文化財(史跡)に、さらに日本遺産「一輪の綿花から始まる倉敷物語」の構成文化財にも登録されている。つまり、ただの“石の大穴”に見えて、実は国が認めた歴史遺産。でも、現地はとても静か。派手な観光地っぽさはゼロで、説明板も控えめ。風の音と水の流れだけが「よく来たな」と迎えてくれる。江戸の頃から続く干拓と綿花の物語、そして倉敷の繊維産業を支えた土地づくりの基礎に、この水門があったのだ。
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