ひょんなげ百景 NO.027 9.7メートルの"塩のあかり"「旧野﨑浜灯明台」
倉敷・児島にクラシックな灯台があると聞いてさっそく見に行ってきました。現地でびっくりしたのは、まさかの木造、まさかの神様用、そして高さ約10メートル。今回は「旧野﨑浜灯明台」という、江戸時代の貴重で「ひょんなげ」な灯台をご紹介。
「灯明台」とは言っているが、要は“灯台”だ。しかも、神社とセットで夜の海を照らすという、日本式ハイブリッド型である。見た目はこんな感じ。塔のてっぺんには宝珠(たま)を載せ、袴腰(スカート)を履いて、かなりファッショナブルな灯台だ。


塩の王・野﨑武左衛門、航路にも気を配る


この灯明台を作ったのは、製塩王こと野﨑武左衛門さん。塩で大もうけして、塩田の東の端にこんな立派な建物をぽん、と建てた。「塩田から出る船が夜でも安全に出入りできるように」「ついでに塩釜明神の神さまも照らしておこう」という、スピリチュアルと実務が同居した理由。灯台でイメージする「命を懸けた男のロマン」系とはちょっと違う。資本の力で照らすロマンである。
木造、本瓦葺き、宝形造り、全部乗せ建築
注目したいのはその構造。
江戸末期らしい風情を色濃く残す、いわば「伝統建築の全部入り」。
- 屋根は宝形造(四方向から屋根が寄ってくるピラミッド型)
- 瓦は本瓦葺き(リアル重厚)
- 腰まわりはスカート状の袴腰(ふわっと)
- 周囲には欄干(見晴らし良好)
この規模ながら、細部までこだわりまくっている。いま作ろうとしたら、かなり大変なのでは?
なぜ木造なのに残ってる?

灯台というと、普通は海辺の風雨に晒されて痛みそうなもんだけど、この灯明台は160年近くその場に立ち続けている。秘密は、基礎に花崗岩の切石を使っている点。そして本体が意外とコンパクト(桁行・梁間ともに1間=約1.8m)で、守られやすかったことも大きい。さらに昭和49年に倉敷市の重要文化財になってからは、大事にされっぱなしだ。江戸時代の灯台で、木造で、しかも今も見学可能。そんなの、全国でほんの一握りである。

場所は岡山県倉敷市児島味野。味野といえばジーンズストリートでおなじみのエリアだが、駅からほんの数分。港に向かっていくと、突然出現する。Googleマップでは「旧野﨑浜灯明台」で検索可能。観光地というよりは、港の静かな風景の一部というたたずまいだ。とくに何かが起こるわけではないが、目の前に立つと「かつてここに船が集まり、塩が積まれ、夜が明るかった」気配が確かに感じられる。過去の経済と信仰と安全を、一発でビジュアライズしてくれる建物なのだ。
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児島方面に出かけたら、ぜひ立ち寄ってみてほしい。塩と灯りと、江戸の設計力に思いを馳せる時間になるはずだ。この灯明台をつくった野﨑武左衛門さんのお家「旧野﨑家住宅」は、歩いてすぐのところ。映画やドラマ、ミュージックビデオのロケ地としても大活躍の旧野﨑家住宅に立ち寄るのもお忘れなく。


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